mignon


2025年12月11日

地方の役人の車に乗せてもらって遠くの村へ調査。お腹の調子が優れずトイレから出るともうホテルの前に彼らが来ており、助手席に座らせてもらう。後ろを見るともう二人役人が乗っていて、後輩も含めると後ろは3人とぎゅうぎゅうである。

こっちに来てから、けっこうな頻度で腹から声を出す人に遭遇することがあって、彼らもそうだった。複数人、車の長距離移動の時、前の座先と後ろの座席での会話が難しいという事態にたまに遭遇するが、腹から声を出せばいいのだという学びを得た。とはいえ、なんという苦手な帯域の声で、お腹が痛い中、それを聞きながら悪路を1時間程度移動するのはかなりこたえた。中学高校と二人どうしても苦手な声の先生がいて、英語と国語の先生だったのだが、特に音読するときの声が私に合わなかった。そんなこともよぎってしんどかった。

なんとか到着まで我慢して、農家な家でトイレを借りる。和式(というが日本が由来なのだろうか)でトイレットペーパーも水洗レバーもない。セブンイレブンで水に溶けるティッシュペーパーを買ってきていてよかった。お椀で桶に溜めてある水を掬って流す。

家によっては屋内にトイレがあるが、庭の少し離れたところにある場合が多い。今日借りた家は電気がついていなかった、ので昼間でも光があまり差し込まず暗かった。便器にかがみながら、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』のことを思い出した。日本の厠は精神が休まるようにできているとかなんとか。

水洗レバーはないと書いたが、シャワーはあっておそらくウォシュレット代わりだろうし、浴槽のないユニットバスとでも言えばいあのか、ここで身体も洗う。一応、電気で水を温めるための機械もついているが、どれほど温まるのかはわからない(いま私が連泊している宿は5分で冷たくなる)。そのためか昼間にシャワーを浴びているようで、レストランでトイレを借りたりすると、隣の個室からシャワーを浴びるような音が聞こえることもある。このトイレに「陰翳」はあるのだろうか、とその機械を見上げながらすこし考えたが、なにか違う言葉を使うべきだろうと思い至る。

二軒のインタビューを終えて宿へ。後輩が誕生日ということで、しゃぶしゃぶを食べに行く。帰路、ちょっと寄ってもいいかと言われ、ライブステージのあるレストラン的な店へ。90年代のタイの楽曲のカバーをバンドが披露していた。ベースが五弦で、ドラムは電子ですこし驚いた。ギターもベースもアンプを通しておらず、日本のライブハウスで聴くよりも、音が整理されて聞こえた。特段PAがいるわけでもなく、理にかなっているといえばそうなのかもしれない。ハイネケンを二杯ほど飲んで、トイレにいくと、便器にTODOと書いてあった。これは陰翳ではない。

 
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